法律事務所を独立開業した弁護士の方や,個人案件を継続的に獲得したい方の中には,「Web集客に力を入れていきたい」と考えている方も多いでしょう。
一昔前と比べて弁護士の数が増え続けるなかで,継続的な新規相談を獲得するにはWeb集客は欠かせません。
この記事では,Webを活用する方法を中心に弁護士の集客方法をご紹介します。それぞれのメリット・デメリットや,想定される客層などもご紹介しますので,ぜひ参考にしてください。
1. 弁護士がWeb集客に注力すべき理由を再確認
まずは,弁護士がWeb集客に注力すべき理由を改めて確認します。
皆様ご存知の通り,一昔前と比較して,日本国内の弁護士の数は大幅に増加しています。
日本弁護士連合会(日弁連)が公開している「弁護士白書」によると,弁護士の数は次のグラフのように推移しています。
上記のデータから,日本における弁護士の数は年々増加していることがわかります。
特に,2000年頃に開始された司法改革制度から弁護士の数は急増し,2023年には1950年の約7.7倍となる44,916人の弁護士が日弁連に在籍しています。
また,日本国内は少子高齢化が進み,いよいよ人口減少のフェーズに差し掛かっています。総務省によれば,2004年の1億2784万人が人口のピークであり,2050年には人口が9515万人まで減少すると予想されています。
弁護士1人あたりの国民数が少なくなれば,当然,多くの事務所が顧客を取り合う状況となり競争が激化します。
さらに,今後はインターネット検索などができて当たり前の世代が顧客層の中心になっていきます。
これらの事情を踏まえれば,独自の集客ルートを確立していない限り,Web集客の施策はできるだけ早い段階で行っておくべきといえるでしょう。
2. 弁護士業界における集客方法の変化と動向
一昔前の法律事務所の集客は,相談者が知り合いなどを通じて法律事務所を訪れる,いわゆる”紹介”の形が一般的でした。
弁護士は,集客に特別力を注がなくても,法律事務所を構えていれば,ある程度の顧客は確保できていたのです。もちろん,現在も紹介を中心に顧客を確保している法律事務所も存在します。
しかしながら,前述した弁護士数の増加,人口の減少,インターネットやSNSなどの普及などによって,現在の相談者の行動も大きく変わりました。
現在は,知り合いなどから紹介を受けずとも,スマートフォンやPCで検索すれば,弁護士や法律事務所はすぐに見つかります。
最近では,”とりあえずインターネットで近くの法律事務所や実績のありそうな事務所を検索して相談してみる”というケースがむしろ一般的であると言っても良いでしょう。
このような環境下では,
- ・インターネットからの集客に特化する
- ・紹介のルートを維持しつつも,Web集客のルートも並行して確保しておく
といった対策をとった方が,集客に困るリスクを軽減できると考えられます。
実際に,一般民事・家事などの分野でも,Web集客を駆使して事務所の規模を急激に成長させている弁護士は少なくありません。
3. 弁護士のWeb集客方法8つ
では,Web集客には具体的にどのような方法があるのでしょうか。現在一般的となっている集客方法には次のようなものがあります。
(1)事務所ホームページの開設
事務所ホームページは,Web経由で相談したい方にとっては欠かせないものといって良いでしょう。相談の窓口になるものですので,独立開業したら絶対に用意しておきたいところです。
事務所ホームページを用意しておけば,法律事務所の場所・所属弁護士のプロフィール・取扱分野・大体の費用感など,顧客が知りたい情報をまとめて伝えることができます。
どれくらいのクオリティのホームページを用意するかは検討の余地がありますが,ホームページの開設自体は速やかに行うべきです。
事務所ホームページでは,少なくとも指名検索(法律事務所名での検索や,弁護士の氏名での検索)で上位表示できる程度のSEO対策(※)はしておきましょう。
欲を言えば,「地域名+弁護士」などの検索ワードでも上位表示できると理想的です。
※SEO対策とは
SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)とは,自身が運営するウェブサイトをGoogleなどの検索エンジンで上位に表示させるための一連の手法や戦略のことを指します。
これにより,サイトへの訪問者数を増やし,ユーザーが自身のサービスを見つけやすくすることが目的です。
ただし,SEOはすぐに効果が出るものではなく,高い効果を得るには専門的な知識やスキルが必要です。
特に,最近のSEO対策は複雑化しており,専門業者でも苦労をしているほどです。「業者に依頼すればすぐに効果が出る」というものではないことは理解しておく必要があります。
(2)ポータルサイトへの登録【無料掲載できるサイトあり】
「弁護士ドットコム」などをはじめとするポータルサイトに登録することで,弁護士への依頼を検討しているユーザーからの問い合わせを獲得することができます。
ポータルサイトへの登録・掲載には月額2~5万円程度の固定費がかかるケースがほとんどです。
当然ながら,知名度の高いポータルサイトには多くの弁護士が登録しています。そのため,他の弁護士や法律事務所と差別化できる強みや特徴などが伝わる紹介文を作成しましょう。
小規模なポータルサイトの中には,一定の条件下で無料で掲載できたり,極めて低額で掲載できるものもあります。
例えば,相続放棄に関する情報サイト「相続放棄ナビ」では,無料での掲載も募集しています。独立したての方などは,とりあえず無料〜低額で掲載できるサイトから掲載を依頼してみるとよいでしょう。
(3)ブログ・オウンドメディアの運営
法的なトラブルに関する解説記事など,ユーザーのためになるコラムを執筆し,事務所ホームぺージやオウンドメディアに公開する方法です。
- ・事務所ホームページ内に,ブログ・コラムを掲載していく方法
- ・事務所ホームページとは独立したWebメディアを作って運営する方法
など,具体的にいくつかの方法があります。
かけられる予算や時間・労力などによっても適切な方法は異なります。
(4)MEO対策
MEO(Map Engine Optimization)は,Googleマップなどで自社が上位表示されるように施策を行うことを指します。
例えば,Google検索で「地域名+法律事務所」と検索してみましょう。どの法律事務所が検索画面に表示されたでしょうか。
上手く施策を打てば,このような検索画面に自分の事務所が表示されるようになり,多くのユーザーの目に付きやすくなります。
また,事務所の情報と合わせて表示される「口コミ」の評価が高ければ,ユーザーと接触せずとも一定の信頼感を獲得できるでしょう。
MEOは,特に事務所周辺の地域の顧客を獲得したい場合には欠かせない施策です。
(5)SNS運用
X(旧Twitter),Facebook,Instagram,TikTokなどのSNSを運用する方法です。
情報拡散力が高い点や,ユーザー同士のコミュニケーションが取りやすく,Webサイトなどに比べて近い距離感で利用できるのが特徴です。
- ①弁護士の実名で運用する
- ②法律事務所の公式アカウントとして運用する
- ③実名は隠して弁護士であることのみを公開して運用する
など,いくつかの方法が考えられますが,知名度を高めて集客に繋げるという点では,弁護士の実名で運用するのが最も適しているでしょう。
ただし,情報が拡散されやすいSNSだからこそ,発信する情報の信憑性や発言内容には気をつけなければなりません。悪い評判も広がりやすいというデメリットもあり,万が一投稿内容が炎上してしまえば,信用を失うことにも繋がります。
(6)YouTube運用
動画という形式でしっかりと解説できるYouTubeは,弁護士との相性が良いと言えるでしょう。
- ・久保田康介 弁護士
- ・岡野武志 弁護士
など,YouTubeで大活躍されている先生方もいらっしゃいます。
懸念点があるとすれば,動画を作成・編集してアップし続けるのは想像以上に大変であるという点でしょう。
一度動画を撮影・編集してみるとわかりますが,ただでさえ忙しい先生方が,見ごたえのある動画をアップし続けるのは簡単なことではありません。
そうであるからこそ,本腰を入れて運用できそうであればまだまだ参入の余地はありそうです。
(7)リスティング広告の出稿
リスティング広告は,検索エンジンの広告枠に自らのホームページやLP(※)を表示させる方法です。
ある程度需要があるキーワードであれば,Googleで検索をして表示された画面の上位2〜3枠がリスティング広告となっていることが多いでしょう。
リスティング広告にかかる費用は入札式となっています。そのため,需要が多いキーワード(高単価の案件の問い合わせに繋がりやすいキーワードなど)は,競合も多く,費用が高くなります。分野によっては,1クリックあたりの広告費用が数千円〜数万円になるケースもあると言われています。
費用対効果を得るためには一定の知識やスキルが必要となります。自身で対応できない場合は,専門業者に運用を依頼することになるでしょう。
LP(ランディングページ)とは
Web広告や検索エンジン,SNSなどから流入したユーザーが最初に閲覧するWebページのことで,商品やサービスの魅力を訴えて問い合わせや注文などのアクションを促すために使用されます。LPは,ホームページと異なり1ページのみで構成され,コンバージョン(CV)に特化しているのが一般的です。
(8)SNS広告の出稿
X(旧Twitter),Facebook,Instagram,TikTokなどのSNSに広告を出稿する方法です。
皆様は,Facebookを見ているときに,法律事務所の広告が表示されるのを見たことはないでしょうか。そのような広告も,課金することで出稿することができます。
SNS広告は,Google検索のリスティング広告よりも出稿費用を抑えやすいなどのメリットがあります。顧客層がマッチしそうな媒体を選んで出稿するのがポイントです。
4. 弁護士の集客方法(Web以外の方法)
さて,ここまで弁護士のWeb集客方法をご紹介しました。ここからは,弁護士の集客方法のうち,Web以外の方法をご紹介します。
Webを活用しない集客方法には,次のようなものがあります。
(1)チラシの配布
チラシの配布は,特定の地域だけにアプローチしたい場合に有効な方法です。チラシの配布には,主に以下の作業が必要となります。
- ・チラシそのものをデザインする作業
- ・チラシを配布する作業
全てを自身で行うのは現実的ではないので,一部または全部の作業を外注することになるでしょう。
高齢者の方々など,まだまだチラシに馴染みがある方はいらっしゃいます。そのような方に効果的に訴求することができるでしょう。
(2)交通機関や役所などでの広告掲示
人の目に触れやすい場所に広告を掲示する方法です。例えば,次のような場所に広告を掲示することができます。
- ・電車,タクシー,バスなどの交通機関
- ・市役所,役場
- ・郵便局
言うまでもありませんが,広告を掲載する場合は,広告を見る人の層と自身の取扱い分野がマッチしているかをしっかりと確認することが重要です。
例えば,電車やタクシーはビジネスマンの目に触れやすい,郵便局は高齢の女性の目に触れやすいといった傾向があります。
(3)セミナーの開催
自身が得意とする分野に関してセミナーを開催する方法です。
セミナーは,新規の顧客を獲得することはもちろん,知名度を上げたり,当該分野での実績を作れるという点でも有効な方法です。
一方で,準備のための時間や労力,場所の用意,セミナー参加者の確保など,やるべきことは多くある点は理解しておく必要があります。
(4)既存の顧客や他士業からの紹介
既存の顧客や,他士業(司法書士・税理士等),弁護士業界内の知人からの紹介は,アナログではあるものの新規顧客の獲得にはとても有効です。
紹介する人とされる人の信頼関係が基礎にありますから,客層をコンロールしやすい,受任に繋がりやすい,顧客との信頼関係が築きやすいといったメリットがあります。
注意したいのは,紹介料に関する規制です。ご存知のとおり,弁護士は紹介の仲介となった人に紹介料を渡すことが禁止されています。紹介の対価と見られる可能性のある金銭の授受は行わないようにしましょう。
5. 弁護士がWeb集客をするメリット
ここでは,弁護士がWeb集客を行うメリットについて解説します。それぞれ見ていきましょう。
【メリット1】広範囲の顧客にアプローチできる
Web集客なら,地理的な制限にとらわれず全国の顧客層にアプローチできます。これがWeb集客の最大の強みと言っても良いでしょう。
弁護士の業務には,顧客の住所地を問わずに受任〜解決まで処理できるものがあります。例えば,発信者情報開示請求や相続放棄などは,全国から受任して処理することも可能です。
このように,地理的な制約を受けない分野を扱っているのであれば,日本全国の顧客にアプローチできるチャンスを活かさない手はないでしょう。
【メリット2】時間を効率的に使える
例えば,事務所ホームページやオウンドメディアを設置すれば,24時間昼夜問わず相談者に自身のサービスを売り込むことができます。
サイト作成時に一定の費用や時間を費やす必要はありますが,その後の効果を考えれば,時間的に効率の良い集客方法であることは間違い無いでしょう。
【メリット3】ブランディングや認知度の向上に最適
WebサイトやSNSなどを通じて専門性や実績をアピールすれば,より多くの人に,自身の強みや得意分野を知ってもらうことができます。
アナログな方法により,「◯◯といえばこの弁護士」と想起される状況を作り上げることは至難の業です。しかし,Webマーケティングを駆使すれば成功の可能性は高まります。
【メリット4】費用対効果が良い
Web集客は必ずしも高額な費用を要するものではありません。無料〜低額のポータルサイトへの掲載など,比較的低コストで行えるものもあります。
また,初期費用がある程度かかったとしても,SEOやMEOで一定の成果を上げることができれば,長期的に見れば費用対効果は良くなることが多いでしょう。
6. 弁護士がWeb集客をするデメリット
ここからは,弁護士がWEB集客をするデメリットについて解説します。
【デメリット1】客層をコントロールしづらい
Web経由での集客は,全国各地のユーザーにアプローチできる反面,問い合わせてくる相談者の客層はコントロールできません。
当然ながら,自身が求めていない客層からの問い合わせが続くこともあるでしょう。そのような問い合わせにどのように対応するのかなども事務所内で決めておく必要があります。
【デメリット2】広告費用が発生する
リスティング広告や大手ポータルサイトへの掲載には費用がかかります。
中には,高額な掲載費用が必要となるにも関わらず質の良い問い合わせがほとんど来ないなど,費用対効果が良くないサイトも存在します。
【デメリット3】専門的な知識が必要になることが多い
例えば,Webサイトの管理・編集であれば,ワードプレスを触れる程度の知識が必要となるでしょう。
また,Google検索やSNSのアルゴリズム,データの分析など,一定の知識やスキルが必要となる場面もあります。
もちろん,専門業者に任せることもできますが,全てを丸投げしてしまうと集客にかかるコストがどんどん膨れ上がってしまいますので,可能な範囲で自身(自社)で対応した方が良いでしょう。