弁護士の方の多くは,そのキャリアのどこかで弁護士事務所を経営する側に移ります。
弁護士の方が独立して弁護士事務所を経営する側にまわった際には「潜在的な依頼者のためにホームページを制作しよう!」として,ホームページの制作を考えられる方が多いように思います。
しかし,弁護士の方がホームページを制作する上では,日本弁護士連合会が策定した弁護士等の業務広告に関する規程の規制(以下「広告規制」といいます。)に注意する必要があります。
本記事では,この①広告規制及び②広告規制の解釈指針である業務広告に関する指針(以下「広告指針」といいます。)の内容を基に,弁護士の方がホームページを制作する上で注意すべき規制を解説します。
広告規制と弁護士のホームページ
そもそも広告規制は弁護士のホームページをも適用対象としているのでしょうか。ホームページは広告としての側面だけを有するものではないため,この点は検討に値します。
この点に関して,広告規制においては,「広告」は次のように定義されています。
「広告」とは,弁護士又は弁護士法人が,口頭,書面,電磁的方法その他の方法により自己又は自己の業務を他人に知らせるために行う情報の伝達及び表示行為であって,顧客又は依頼者となるように誘引することを主たる目的とするものをいう。
弁護士等の業務広告に関する規程
このように,かなり広く定義されています。
したがって,弁護士の方が,弁護士との肩書を明記するホームページは,基本的に「広告」に該当することになります。
弁護士のホームページにも広告規制は適用されることになるといえるでしょう。
東京弁護士会のWebサイトにおいても,「事務所のウェブサイトに,所属弁護士会の表示がないものは違反広告です。」との記載があり,広告規制が弁護士のホームページに適用されることを前提としています。
弁護士に対する広告規制の概要
広告規制には,概要として,弁護士に対する次の規制が用意されています。
- 禁止行為
- 表示義務
- 保存義務
- 違反時の制裁
以下,こちらの各規制の内容を確認します。
広告規制と禁止行為
まず,広告規制のうち,弁護士がホームページ等で広告を行う際に禁止される行為について定めた規制について確認します。
禁止される広告
弁護士は,次の行為が禁止されています。
- 事実に合致していない広告
- 誤導又は誤認のおそれのある広告
- 誇大又は過度な期待を抱かせる広告
- 困惑させ,又は過度な不安をあおる広告
- 特定の弁護士若しくは外国法事務弁護士又は法律事務所若しくは外国法事務弁護士事務所と比較した広告
- 法令又は本会若しくは所属弁護士会の会則及び会規に違反する広告
- 弁護士の品位又は信用を損なうおそれのある広告
このうち1〜4については,景品表示法などでも禁止されている広告規制にあたると思います。
5は,いわゆる比較広告を禁止するものであり,6は,名義貸しなどを行った広告を禁止するものです。
7は,抽象的な定めとなっていますが,広告指針では,次のような行為が上記7で規制される例として挙げられています。
- 「法の抜け道,抜け穴教えます。」
- 「競売を止めてみせます。」
- 「用心棒弁護士」との表現を含む広告
- ことさら残酷又は悲惨な場面を利用した広告
表示が禁止される広告事項
弁護士は,次の事項の広告が禁止されています。
- 訴訟の勝訴率
- 顧問先又は依頼者
- 受任中の事件
- 過去に取扱い又は関与した事件
もっとも,このうち2から4の規制については,例外的取り扱いが定められています。
1点目として,顧問先や依頼者の書面による同意がある場合,2から4の事項を広告に表示できます。
また2点目として,次の2要件をいずれも充足する場合は,3および4の事項を広告に表示できます。
- 依頼者が特定されない場合
- 依頼者の利益を依頼者の利益を損なうおそれがない場合
そして,3点目として,次の2要件をいずれも充足する場合も,4の事項を広告に表示できます。
- 広く一般に知られている事件
- 依頼者の利益を損なうおそれがない場合
受任や顧問契約締結の際は,依頼者や顧問先から広告に使用することの同意を得ておくのが望ましいかもしれません。
その他の禁止行為
広告規制では,上記の他にも,弁護士が行う広告に関連して禁止される行為をいくつか列挙されています。
弁護士によるホームページ制作との関係で重要なのは有価物等供与の禁止です。
広告規程第7条は,次のように規定します。
弁護士は,広告の対象者に対し,社会的儀礼の範囲を超えた有価物等の利益を供与して広告をしてはならない。
弁護士等の業務広告に関する規程
広告方針では,この規制の趣旨は,次の点にあるとされます。
規程第7条が広告対象者に対して,社会的儀礼の範囲を超える有価物等を供与し依頼の勧誘を行うことを禁止したのは,弁護士等への依頼は,本来依頼者の自由な意思により行われるところ,社会的儀礼の範囲を超える有価物等の供与はこれを歪めるおそれがあり,かつ,このような手段を用いて依頼を勧誘することは弁護士等の品位を損なうことにつながるからである。
業務広告に関する指針
広告からの申込者に対し,何らかのプレゼントや金銭的利益を与えることは,この有価物等供与の禁止に違反すると考えられます。
広告規制と弁護士のホームページにおける表示義務
続いて,弁護士がホームページ等によって広告を行う際には,広告規制における表示義務にも従う必要があります。
広告規程によれば,弁護士は次の事項を表示する必要があります。
- 氏名
- 所属弁護士会
※ 弁護士法人の場合には,表示すべき事項が異なりますので,ご注意ください。
※ 弁護士が共同して広告する場合には広告を代表するものの氏名と所属弁護士会を記載することになります。
広告規制と弁護士の保存義務
広告規程では,上記のような禁止行為および表示義務の規制に加えて,保存義務の規制があります。
ホームページに即していえば,弁護士の方は,次の情報などを記録し,保存する必要があります。
- ホームページのデータ
- ホームページの掲載を開始した時期等
- 顧問先や依頼者の書面による承諾を得て受任中の事件等の表示をした場合には,当該書面による承諾を示す資料
保存義務は,広告が終了した時から3年間とされています。
弁護士の方がホームページ制作会社を選ぶ場合には,このような保存義務の遵守に協力してくれる会社を選ぶことが望ましいでしょう。
広告規制に違反した場合の制裁
それでは,弁護士の方が上記のような広告規制に違反した場合には,どのような制裁があるのでしょうか。
以下,これについて検討してみます。
命令および公表
弁護士の方が広告規制に違反した場合,弁護士会は当該弁護士に対し,違反行為の中止,排除その他の必要な事項を命じることができます。
そして,①弁護士が命令に従わなかった場合や,②違反行為の中止もしくは排除が困難な場合であって,違反行為による被害発生防止のため特に必要があるときは,弁護士会は命令等を行なった事実および理由の要旨を公表できます。
命令等を受けた事実や理由の要旨が公表されると弁護士としての業務に支障を及ぼす恐れもあるため,これは比較的強い制裁といえるのではないでしょうか。
弁護士会による懲戒処分
広告規制を定めた広告規程は,日本弁護士連合会の会則になります。
そのため,広告規制に違反した場合,弁護士法第56条第1項に基づき,懲戒処分を受ける可能性があります。
具体的には,次のような処分を受ける可能性があります。
- 戒告
- 2年以内の業務停止
- 退会命令
- 除名
過去には弁護士法人アディーレ法律事務所が業務停止処分を受けたこともあります。
もっとも,アディーレのケースは,景品表示法違反を理由に消費者庁からも措置命令を受けていた事案です。
過去の懲戒処分を見る限り,実際に懲戒処分がなされるケースはそれほど多くないと考えます。
しかし,万が一,懲戒処分を受けてしまった場合,弁護士業務に大きな不利益が生じてしまうため,注意が必要です。
最後に
本記事では,広告規制との関係で弁護士が注意すべき規制を記載しました。
弁護士の方が自分でホームページを制作される場合も,第三者にホームページの制作を依頼する場合も,広告規制を遵守する必要があります。
ホームページの制作を第三者に依頼する場合,このような広告規程の規制も理解している業者に依頼することが望ましいでしょう。
本記事が,ホームページの制作を考える弁護士の参考になれば幸いです。